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弁財天⑤ 十五王子 | ペコ丸の古典芸能よもやま話

こんにちはペコ丸です。令和4年の長栄座伝承会「むすひ」のチラシができましたね。
さて、これまで弁財天について色々調べてみましたが、十五王子については手をつけていませんでした。そこで、今回は十五王子について簡単に紹介したいと思います。

弁財天は、その信仰が広まっていく過程で、偽経ぎきょうがいくつも製作され流布されることで、さらに様々な民間信仰へと形を変えて広がっていきました。偽経とは、サンスクリット語の経典から翻訳された真経に対し、中国・日本などにおいて俗信や正統仏教とは別の思想を取り入れて作られた派生的な経典を指します。室町時代以降の弁財天信仰では、鎌倉時代の『金光明最勝王経(こんこうみょうさいしょうおうきょう)』で説かれている本来の弁才天信仰(コラム「弁財天③」参照)ではなく、そのような偽経に基づいて、財宝神としての信仰が広まりました。宇賀神と習合した宇賀弁財天の偽経にあるのが「宇賀神将(うがしんしょう)十五王子」です。ところで、いざ十五王子を調べてみると、不思議とあまりネットや図書館の検索には引っかかってこず、困りました。その代わりに、「十五童子(どうじ)」だと、色々な資料がでてくるのです。どうも、一般的には十五童子で通っている様です。

コラムの1本目では、まだまだ謎が多かった弁財天ですが、少しずつ謎が解けてきました。
さて、十五童子は、弁財天の従者だそうです。僕はまず、住んでいる京都の街で、十五童子に会えるお寺を探してみました。京都東山区にある香雪院(こうせついん)に、十五童子についての説明があることを知り、行ってきました。

京都市東山区にある東山聖天尊(香雪院)

京都市東山区にある東山聖天尊(香雪院)

お寺の方がおられたので、飼い主に抱っこしてもらってなら僕も参拝ができるとのことでした。直接、弁財天にお会いすることができて嬉しかったです。

境内の辨天堂前で神妙な面持ちになる僕

境内の辨天堂前で神妙な面持ちになる僕

辨天堂(べんてんどう)の入り口両側に、十五童子についての説明がありました。写真に撮りましたので、まずはそれを見てください。

また、下記は、鎌倉市の長谷寺(はせでら)にある弁天窟(べんてんくつ)で紹介されている十五童子のお名前と功徳(くどく)についての説明です。香雪院辨天堂(こうせついんべんてんどう)の写真のお姿と説明と一緒に見比べてみてください。なお、香雪院辨天堂では、通常十五童子に入っている従者童子に代わって善財(ぜんざい)童子が描かれています。(ちなみに、弁財天の従者を、十五童子に善財童子を加えた「十六童子」とすることもあるようで、長谷寺では十六童子となっていました)

飯櫃はんき童子
功徳:食物授与の神
お姿:満たされた飯櫃を持つ

衣裳いしょう童子
功徳:衣服に不自由をしない神
お姿:手に衣裳を捧げる

蠶養さんよう童子
功徳:蚕・(まゆ)の神、衣類の神
お姿:両手に蚕の繭を持つ

酒泉しゅせん童子
功徳:酒の神
お姿:右手に酒(しゃく)、左手に宝珠(ほうじゅ)を持つ

稲籾とうちゅう童子
功徳:五穀豊穣の神
お姿:肩に稲の束を負い、手に宝珠を持つ

船車せんしゃ童子
功徳:交通安全の神
お姿:傍に船と牛車(ぎっしゃ)を置く

生命しょうみょう童子
功徳:長寿の神
お姿:右手に宝剣、左手に宝珠を持つ

牛馬ぎゅうば童子
功徳:動物愛護の神
お姿:牛馬と共にいる

愛慶あいきょう童子
功徳:愛情・恋愛成就の神
お姿:右手に矢、左手に弓を持つ

官帯かんたい童子
功徳:法を守る神
お姿:手に官位を司る帯を持つ

従者じゅうしゃ童子
功徳:経営の神
お姿:手に宝袋を持つ

計升けいしょう童子
功徳:経理・経営の神
お姿:両手に(ます)を持つ

金財こんざい童子
功徳:金銀財宝・商売繁盛の神
お姿:手に秤の糸と秤量(ひょうりょう)を持つ

筆硯ひっけん童子
功徳:学問成就の神
お姿:筆と(すずり)を持つ

印鑰いんやく童子
功徳:悟りと解脱へ導く神
お姿:右手に宝珠、左手に(かぎ)(宝庫の鍵)

長谷寺に書かれている十五童子の功徳を知った時に、僕はなぜだか「マズローの欲求五段階説」を思い浮かべました。アメリカの心理学者、アブラハム・マズロー(1908-1970)が考案した、人間の欲求は5段階のピラミッドで構成されているという説です。

「生理的欲求」生きていくために必要な基本的・本能的な欲求
「安全欲求」安心・安全な暮らしへの欲求
「社会的欲求」友人や家庭、会社から受け入れられたい欲求
「承認欲求」他者から尊敬されたい、認められたいと願う欲求
「自己実現欲求」自分の世界観・人生観に基づいて、「あるべき自分」になりたいと願う欲求

人間は、「生理的欲求」から順に欲求を満たし昇華することで、自分の中の可能性を探り、使命を果たすべく、自分自身に向き合うようになるとされています。
そして、この5段階の欲求階層の上には、さらにもう一つ上の「自己超越の欲求」があるとマズローは晩年に加えたそうです。見返りなどを求めず、世界の課題への取り組みや社会貢献など、使命の達成や目的の遂行を純粋に求める段階を指すそうです。十五童子の順番は、僕が並び変えていますが、もう一度、十五童子の功徳を順に見てみてください。これらの欲求に沿っていると思いませんか?

「マズローの欲求五段階説」は、今のビジネスでもよく参考にされていますが、700年ほどの前の日本に、既に神様という形で唱えられていたわけです。

僕は犬ですが、「生理欲求」と「安全欲求」、人や仲間の犬に愛されたい「社会的欲求」が満たされていて、幸せです。

ところで、十五童子には「牛馬童子」という動物愛護の神がいますが、当時から人と動物が共にあるという思想があったことが僕としては嬉しかったです。そして余談ですが、お酒も、ずっと人と共にあったのですね。僕は飲めないですが、人として生きる為の、大切なものランキングに酒が欠かせないのも面白いと思います。

次回2022年7月30日、31日上演の「第3部 響鳴(きょうめい)~日本三大弁財天と宇賀神将十五王子~安芸宮島 厳島弁財天と五王子」では、どの五王子(五童子)に会うことができるのか、楽しみにしています!

ペコ丸(代筆:平山聡子)

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